Ⅰ放射能の基礎知識

放射線の基礎知識

1)放射線

放射線は英語でRadiationというが、本来は放射(エネルギーの放出と伝播、または放出されたエネルギー自身のことである)を意味している。放射線のタイプとしては、電磁波、電荷を持った粒子、電荷を持たない粒子に大きく3分類できる。
電磁波: テレビ、ラジオ、携帯電話の電波の親戚で、X線とγ線が代表である。
電荷を持った粒子: +か-の電荷を持った粒子で、α線、β線、陽電子、電子、陽子、重陽子等がある。
電荷を持たない粒子: 電気を持たない粒子で中性子が代表的である。

次に代表的な放射線について簡単に触れる。
X線: 原子の軌道電子と加速された自由電子等の相互作用で発生する電磁波。
γ線: 励起された原子核が安定なエネルギー準位に戻る時に発生する電磁波。
β線: β崩壊した時に原子核から放出される電子(電荷-1、+1)
中性子: 原子核が分裂した時に放出される粒子あるいはα線を原子核が吸収した時に放出される粒子。

2)原子の構造

すべての物質を作る源である原子は+の電荷を持った原子核とーの電荷持った電子とでできている。原子核はさらに+の電荷を持った陽子と電荷を持たない中性子でできている。質量数は原子の重さを表す。電子は軽いので重さのほとんどは陽子と中性子で占められる。Z+Nを質量数Aと呼ぶ。原子番号は原子の種類を特定する量である。Zで表す。原子番号が同じでも質量数が違う原子がある。これを同位体と呼ぶ。

3)半減期

放射能の強さが半分になるまでの時間で、自然界に広く存在するウラン238は45億年、カリウム40は13億年、人工放射性物質であるセシウム137は30年、ヨウ素131は8日である。

4)放射線の種類と特徴

(1)α線の場合
α線は空気中で数cm、人体では皮膚の表面で止まる。従って人体の外部からα線を受けても影響はない。しかし、体内にα線を放出する物質(例:プルトニウム239)を摂取した場合は、それが沈着した組織を集中的に被ばくさせる(内部被ばく)。

(2)β線の場合
α線よりも透過力がある。空気中で数m程度で、大部分は皮膚内部で止まる。
従って皮膚の被ばくが問題となるが、体内組織や臓器への影響はほとんどない。
一方、内部に放射性物質を取り込んだ場合には、α線ほどではないが内部被ばくの問題がおこる場合がある。

(3)γ線の場合
γ線はX線よりも透過力が強く、止める為には鉛やコンクリートが必要である。
外部からγ線を受けた場合には体内の組織や器官に到達し、影響を与えるが、 大部分は影響を与えず体を通過する。

(4)中性子の場合
中性子はほぼ水素と同じ重さの粒子であり、電荷がないので透過力が強く、水とパラフィン(水素原子を多く含む物質、中性子を減速したり吸収したりする物質)等で遮蔽する。例えば、安定元素ナトリウム-23に中性子が取り込まれると、質量数が1増え、エネルギー的に不安定なナトリウム-24という物質に変わる。ナトリウム-24は15時間の半減期で安定なマグネシウム-24にβ-崩壊する。

6-2

5)放射線の単位

Bq(ベクレル): 放射性物質が崩壊する回数/秒を表す単位
Gy(グレイ): 放射線が物質中を通過する時に物質中に付与されたエネルギー(J/Kg)を表す吸収線量の単位
Sv(シーベルト): 放射線防護の観点から放射線の種類により生物学的影響の差異を勘案した単位
6)被ばくの様式

1.外部被ばく:
①線源が体の外部にあり放射線が空間を経て、人体を通過するような被ばく
②体表面汚染とは線源である放射性核種、放射性物質が人体表面、着衣に付着した状態
2.内部被ばく:体内に放射性核種や放射性物質が入り、組織や臓器に沈着し、それらが線源となりその近傍の細胞や組織あるいは臓器を被ばくさせる

実際の事故では、1、2が様々に組み合わさって起きる。

7)放射線の人体への影響

放射線は、水分子をラジカル化することにより様々な生物学的影響を発揮する。

放射線により細胞膜からセラミドが遊離すると、細胞死のシグナルが惹起される。
放射線は、ラジカルを介してDNAを切断する。α線や中性子線は、直接DNAを切断する場合もある。1本鎖DNAはすぐ修復されるが、一定の確立で修復ミスが起きる。また、2本鎖DNA切断が起きると完全修復が困難で、染色体の部分欠損、逆位、転座等が起きるリスクが高まる。DNA切断の修復が不完全で細胞分裂の際に障害がでると、その細胞は細胞死する。

放射線生物学的影響は、確定的影響と確率的影響に大別される。
確定的影響は、細胞死により組織の細胞欠落症状が起きて顕われる放射線障害、あるいは組織修復過程で変性が起きることによってひき起こされる放射線障害である(白内障、受胎能の減退、皮膚の損傷、血液失調症)。被ばくした集団の1~5%で細胞欠落症状や組織変性が顕在化する最低線量をしきい値と呼ぶ。
これに対して確率的影響は、放射線によるDNAの点突然変異や染色体変異によりひき起こされる影響である(悪性腫瘍、遺伝的影響)。

8)日常社会と放射能

atom1-8

9)確定的放射線影響と確率的放射線影響

7-2

10)急性放射線症候群の重傷度と急性放射線被ばく線量

症状と
治療方針
軽度
(1-2Gy)
中等度
(2-4Gy)
重症
(4-6Gy)
非常に重症
(6-8Gy)
致死的
(>8Gy)
嘔吐 2時間以降
10-50%
1-2時間後
70-90%
1時間以内
100%
3分以内
100%
10分以内
100%
下痢 なし

なし

軽度
3-8時間
10%未満
軽度
1-3時間
10%~
重度
数分以内
ほぼ100%
頭痛 軽微

軽度

中等度
4-24時間
50%
重度
3-4時間
80%
重度
1-2時間
80-90%
意識 障害なし

障害なし

障害なし

障害の可能性

意識消失
数秒-数分
-100%(>50Gy)
体温 正常

微熱
1-3時間
10-80%
発熱
1-2時間
80-100%
高熱
1時間
100%
高熱
1時間
100%
治療方針 外来
フォロー
総合病院に
収容
必要に応じて
専門病院へ
専門病院で
治療
専門病院で治療 収束的治療

※ 横須賀市医師会被ばく医療マニュアルより

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